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一方で禁煙では予防できない肺がんが増えているってホント?
法律で厳しく規制されることになった「受動喫煙」
一方で禁煙では予防できない肺がんが増えているってホント?
がんの発症リスクを減らすには、禁煙、節酒、運動や食事の管理など、健康的な生活習慣が欠かせません。特にたばこの害は喫煙者だけでなく周囲の人にまで及ぶとして、2020年4月1日より、喫煙に対する厳しい法律が施行されることになりました。今回の規制は、日本人に多く、喫煙と特に関係の深い肺がんの予防に寄与するものといえます。しかし、一方で肺がんには禁煙で予防しにくいタイプもあることがわかっており、こうした肺がんのメカニズムを明らかにする研究も進められています。受動喫煙防止ルールの強化を機に、肺がん予防や早期発見の対策について今一度確認しておきましょう。
目次
受動喫煙を防止するための取り組みは、「マナー」から「ルール」へ
1980年代初頭、がんは脳血管疾患を抜いて日本人の死因第1位となり、現在に至っています。一方で、不健康な生活習慣、ウイルス、遺伝子異常などがんの原因については徐々に解明が進み、有効な予防方法や治療法も明らかになりつつあります。
不健康な生活習慣としてまず挙げられるのが喫煙で、がんにかかった人のうち、たばこが原因と考えられる患者さんは男性が約30%、女性が約5%とされています※1。
たばこやその煙には、約5,300種類もの化合物が含まれ、その中から約70種類もの発がん物質が検出されています。また同じ煙でもフィルターを通さない副流煙は、フィルターを通した主流煙よりも多くの有害物質を含んでいます。
「副流煙のほうが有害」ということは、当然、たばこを吸っている本人だけでなく、そばで煙を吸い込んだ人にも健康被害を及ぼす可能性があります。喫煙者の近くで煙を吸い込むことを「受動喫煙」と呼びますが、自らがたばこを吸わない人でも受動喫煙によって肺がんのリスクが高まってしまうことがあるのです。
こうしたことを受けて2018年7月には、国をあげての受動喫煙対策として改正健康増進法※2が成立、2020年4月1日より全面施行されました。健康増進法は、国民の健康維持と病気予防を目的に制定された法律で、2003年5月に施行されました。今回、屋内禁煙を原則とする改正法案が成立し、この4月から全面施行されることになったのです※2。
健康増進法の一部を改正する法律(平成30年法律第78号) 概要
- 【改正の趣旨】
- 【基本的考え方 第1】「望まない受動喫煙」をなくす
- 【基本的考え方 第2】受動喫煙による健康影響が大きい子ども、患者等に特に配慮
- 【基本的考え方 第3】施設の類型・場所ごとに対策を実施
※厚生労働省ホームページより抜粋
この法律に基づき、「喫煙を主目的とするバー、スナックなど」、「店内で喫煙可能なたばこ販売店」、「公衆喫煙所」を除く屋内での喫煙は原則禁止となりました。また、学校や病院、児童福祉施設や行政機関など特に配慮すべき施設では、敷地内での喫煙も禁止とされています。
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出典:なくそう!望まない受動喫煙。サイト(厚生労働省)
https://jyudokitsuen.mhlw.go.jp/overview/
さらに東京都では、2020年4月1日から独自の「東京都受動喫煙防止条例」を施行。国の法令では、個人や中小企業が経営する、客席面積100平方メートル以下の飲食店は規制の対象から外れますが、都条例では面積は関係なく、家族経営などで従業員がいない飲食店のみ規制の対象外となります。また、国の法令では認められている保育園・幼稚園・小中学校・高校の屋外喫煙スペースの設置も、東京都条例では禁止とされました。
※1 国立がん研究センターがん情報サービス がんの発生原因と予防 「たばことがん」より
※2 厚生労働省ホームページ「受動喫煙対策」より
たばこは肺がんをはじめ、さまざまな健康被害の原因に
たばこの健康被害には呼吸器系の病気はもちろん、狭心症や心筋梗塞などが挙げられますが、もっとも深刻な疾病の1つにがんがあります。
特に肺がんは喫煙との関係が深く、罹患率について喫煙者と非喫煙者を比較した場合、男性では4.4倍、女性では2.8倍、喫煙者のほうが肺がんにかかりやすく、喫煙を始めた年齢が若いほど、また喫煙量が多いほど、そのリスクが高くなるとされています※3。
また喫煙は、肺がん以外にも、口腔・咽頭がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮頸がんなどとの因果関係も指摘されています。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス がんの発生原因と予防 「たばことがん」
これらのがんのなかには、胃がんのヘリコバクター・ピロリ菌、肝臓がんの肝炎ウイルス、子宮頸がんのヒトパピローマウイルスのように、細菌・ウイルスへの感染が主原因とされているものもありますが、喫煙もリスクを高めることが明らかになっています。
さらにがんにかかったあとも喫煙を続けていると、再発のリスクが高まるだけでなく、新たに発生するがん(2次がん)の原因となることや予後(病気の経過や見通しのこと)が悪化することも分かってきました。
反面、喫煙していてもがんの診断後に禁煙した患者さんは、たばこを吸い続けた患者さんと比べて2次がんの発生リスクが下がるという報告もあがっています※4。
※3 国立がん研究センターがん情報サービス「肺がん」参照
https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/index.html
※4 国立がん研究センターがん情報サービス がんの発生原因と予防 「たばことがん もっと詳しく知りたい方へ」参照
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/smoking/tobacco02.html
肺がんの中には喫煙に関係なく発症するものもある
このように、喫煙との関係が深い肺がんですが、禁煙を徹底するだけでは十分な肺がん対策とはいえません。というのも、肺がんのなかには、喫煙に関係なく発症するタイプのものもあるからです。
肺がんは、組織の型により大きく非小細胞肺がんと小細胞肺がんの2つに分けられ、非小細胞肺がんはさらに扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん、腺(せん)がん、大細胞がんに分類されます。
このうち、喫煙との関連が大きいとされているのは、非小細胞肺がんの中の扁平上皮がんと小細胞肺がんです。腺がんは、一般的に肺腺がんといわれ、日本人にもっとも多い組織型ですが、喫煙との関係は低いとされています。
■主な肺がんの組織型とその特徴
組織分類 | 多く発生する場所 | 特長 | |
---|---|---|---|
非小細胞 肺がん |
腺がん | 肺野 | ・肺がんの中で最も多い ・症状が出にくい |
扁平上皮 がん |
肺門 (肺野部の発生頻度も高くなってきている) |
・咳や血痰などの症状が現れやすい ・喫煙との関連が大きい |
|
大細胞 がん |
肺野 | ・増殖が速い | |
小細胞 肺がん |
小細胞 がん |
肺門・肺野 ともに発生する |
・増殖が速い ・転移しやすい ・喫煙との関連が大きい |
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「それぞれのがん 肺がん」
肺腺がんはたばこを吸わない男性や女性にも多く見られ、喫煙による肺がんが減りつつあるのに対し、肺腺がんの患者さんは増加傾向にあります。
原因の詳細についてはまだ解明されていませんが、がん細胞に異常な増殖シグナルを送り続ける遺伝子変異が関係しているということがわかってきました。
がんは、正常な細胞のもつ遺伝子がなんらかの要因で傷つき、変異することによって発症するといわれていますが、最近の研究で、その遺伝子変異が特定できるようになってきたのです。
こうしたなか、2020年2月、国立がん研究センターの研究グループは、肺腺がんの原因となる新たな遺伝子「NRG2」を発見したと公表しています※5。
肺腺がんに関係する遺伝子変異についてはすでにいくつか発見されていて、それをターゲットとする薬も保険適用になっています。
しかし、今回発見された「NRG2」は、研究対象となった肺腺がんの患者さんのうち7割もの人に見つかった遺伝子変異ということで、この発見が、より多くの患者さんに効果のある薬の開発に結びつくのではないかと期待されています。
※5 国立がん研究センタープレスリリース「日本人に多い肺がん(肺腺がん)の新たな治療標的及び術後予後の予測マーカーを発見」
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/0226/index.html
肺がんの早期発見に期待される「低線量胸部CT肺がん検診」
肺腺がんのように、禁煙では予防できない肺がんについてはどう対処したらよいのでしょうか。
一つとして、がん検診などをしっかり受けて、早期発見につとめることが挙げられます。
初期の肺がんはほとんど自覚症状がなく、症状が出てからの発見では、がんが進行していることも少なくありません。肺がんが見つかったとき、ステージⅠであれば5年生存率は80%以上ですが、ステージⅢになると約23%、ステージⅣでは約6%と1桁台に落ち込んでしまいます※6。がんになっても治癒を目指すためには早期発見が不可欠なのです。
日本におけるがん検診には、市区町村単位で実施されている「対策型検診」と、各医療機関が提供する人間ドックなどの「任意型検診」があります。
対策型検診は日本人に多い主要ながんの死亡率の減少を目的とし、肺がん検診としては、「胸部エックス線検査(レントゲン)」と「喀痰(かくたん)細胞診※7」を推奨しています。
一方、より小さな病変を検出できる、胸部CTによる肺がん検診を行う施設が増えています。胸部エックス線では、正面と側面からしか撮影しないため、臓器が重なって見えない部分が生じることがあり、小さながん細胞を見逃してしまう場合があります。
胸部CT検査であれば、断層画像によって診断するため、臓器の重なりで隠れる部分がなく、画像の解像度も高いことから小さながんも検出しやすくなります。実際、茨城県日立市の住民3万人以上を対象とした研究では、低線量CTを使った肺がん検診(低線量CT検診)が早期発見と死亡率減に寄与したという結果が出ています※8。
がん検診のための胸部CT検査については、被ばく線量が多いことが課題とされてきましたが、最近では装置の改良が進み、これまでの10分の1程度と少ない被曝量で精度を落とすことなく検査が行えるようになりました。
低線量での撮影には、特別な機器が必要なわけではなく、一般的な診療に用いられているCTで行うことができます。低線量にすることで画質は劣りますが、検診の目的は異常があるかないかを振り分けることですので、十分な成果が出せるといいます。
がんの中でも肺がんは、日本人のがん死亡数がもっとも多い手強いがんの1つです。今回の健康増進法の改正をきっかけとして、生活習慣の見直しやがん検診の必要性を再確認してみてはいかがでしょうか。
※6 全がん協部位別臨床病期別5年相対生存率(2009-2011年診断症例)
※7 「喀痰細胞診」とは痰の検査で、50歳以上の喫煙者で喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上の人を対象に行う。
※8 Nawa T, Fukui K, Nakayama T, Sagawa M, Nakagawa T, Ichimura H, Mizoue T. A population-based cohort study to evaluate the effectiveness of lung cancer screening using low-dose CT in Hitachi city, Japan. Jpn J Clin Oncol. 2019 Feb 1; 49(2): 130-136.
ポイントまとめ
- たばこには約70種類もの発がん物質が含まれている。自らがたばこを吸う喫煙はもとより、たばこを吸わない人の受動喫煙が問題視されている
- 2020年4月1日より、改正健康増進法および東京都の受動喫煙防止条例が施行され、公共施設、学校、飲食店などの屋内での喫煙が原則禁止となった
- たばこは肺がんのほか、口腔・咽頭がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮頸がんなどさまざまながんと関係していることが明らかになっている
- 肺がんの中には、禁煙で予防できるがんと予防しにくいがんがあり、喫煙との関係が薄い肺腺がんが日本人に増えている
- がんの発症には遺伝子変異が関係しているとされ、肺腺がんのように原因がはっきりしないとされていたがんでも、遺伝子レベルで原因を探る研究が進んでいる
- 肺腺がんのように原因と予防策が明確になっていないがんに対しては、がん検診による早期発見が重要
- 肺がん検診として、「胸部エックス線検査」に比べてより早期の病変を発見しやすい「低線量胸部CT検査」を行う医療機関が増えている
- 【当記事の参考】
厚生労働省ホームページ受動喫煙対策
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189195.html国立がん研究センターがん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/index.html国立がん研究センタープレスリリース「日本人に多い肺がん(肺腺がん)の新たな治療標的及び術後予後の予測マーカーを発見」
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/0226/index.html特定非営利活動法人日本CT検診学会ホームページ
https://www.jscts.org/index.php
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